【この本を読んで、この歳になってもなぜ初雪が恋しいのか解りました。雪国に暮らす人々の温かさも・・動物写真家 星野道夫著「アラスカ 永遠なる命」より】
『初雪の日、しんしんと降り積もる冬化粧を見つめながら、人はそれぞれの思いで立ち尽くすのだろう。つかの間に過ぎゆく極北の夏、人びとは慌ただしく働き過ぎてしまったのかもしれない。少し疲れているのだ。そして、冬の訪れは、なぜか心地よい諦めを人の心にもたらしてくれる。それはどこか、雨の日を家で過ごす気持ちに似ている。これから長く暗い季節が始まるというのに、初雪に心が安らぐのはそういうことなのだろうか。
そして雪とはなんと暖かいものなのだろう。生き物たちは生存のために雪に適応してきただけでなく、生存のために雪が必要なのだ。大地を覆う雪のブランケットがなければ、その下で冬を越す多くの動物たちは、酷寒の冬を生きのびることかできない。冬の暖かさは、ぼくたちの気持ちにさえ伝わってくる。無機質な白い世界は、人の心にあかりを灯し、かすかな想像力さえ与えてくれる。雪のない冬景色ほど寒々しいものはないと思う。』